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「弱い自分と向き合う」工藤公康

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20120828の日本経済新聞のスポーツ欄コラムより。

日本シリーズのMVPを2年連続で獲得。プロ6年目当時の私は”てんぐ”だった。ネオン街に繰り出し、ボトル1本以上あけての日帰りはザラ。練習で汗をかきアルコールを抜く日々だった。

これで成績を残せるはずがない。89年は4勝(8敗)に終わった。特に肝臓の痛みがひどく、医者からは「このままだと死ぬよ」とまで言われた。

「本当に選手生命が終わってしまう」。ビール、ブランデーなど家中の酒を捨てて家にこもったが、体調はすぐに戻らない。

スポーツ医学に詳しい筑波大の白木仁教授を訪ね、練習法を根本から教えてもらった。だが専門家の言葉が理解できない。「単にうなずいているだけなら指導を受ける意味がない」と思い、トレーニング関連の本を買いあさった。筋肉の名前や使い方を覚え、先生と同じレベルで会話しようと必死に勉強した。

「トレーニングは3年先、5年先を見据えて」が白木先生の指導。今の練習成果が3ヶ月後に表れることはない。継続にこそ意味がある。やみくもに体を動かすのでなく、「何のためのトレーニングか」の理論を学ぶことが重要だと知った。

変化は着実に訪れた。91年は16勝し、ようやく復活を果たせた。

飲みに行くのをやめ、バランス良く食事を取り最低でも10時間は寝た。規則正しい生活習慣がいかに大切かを思い知った。トレーニングはきついという次元を超え肉体の限界への挑戦となった。

若いころのどん底がなかったら、弱い自分と正面から向き合えたろうか。

29年間のプロ野球人生は悩みと苦しみの連続だったが、私にはそれが「財産」だ。今でも学び、知り、行動することの大切さは忘れていない。

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