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里崎智也のキャッチャー論

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引退が惜しまれる千葉ロッテの里崎智也選手。

THE PAGE に興味深いインタビュー記事(『引退・ロッテ里崎が野村克也氏、古田敦也氏より優れていた知られざる記録』)が掲載されていたので紹介。

THE PAGE の記事タイトルにもある里崎が持つ記録とは、1000試合以上出場している捕手の中で、捕逸、すなわちパスボールの通算記録が最も少ないというもの。

野村が2921試合で207個(14.1試合に1個の割合)、古田が1959試合で104個(18.8試合に1個)であったのに対し、里崎は、1003試合の守備出場で19個(52.7試合に1個)でナンバーワンの記録だとのこと。
ちなみにナンバーツーの記録保持者は森祇晶氏で1833試合で42個(43.6試合に1個)。
ただそもそも、割合ではなく、通算の数を比べるのはフェアじゃないだろう。
もちろん率でみても里崎がパスボールが少ないことは上の3名と比べればよくわかるが。

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里崎曰く、

パスボールはノーバウンドのボールをミスしたときに記録されるもので、ワンバウンドを逸らしたボールは、ほとんどの場合、ピッチャーのワイルドピッチと記録されるんです。自分でサインを出しているんだから捕球するのは当たり前

ノーバウンドのボールとはいえ、フォークやスライダーなどの鋭い縦変化の変化球が多いピッチャーの場合、パスボールかワイルドピッチかの判断が難しい厳しいボールは多くなるだろうから、キャッチャーの補球能力に加え主力ピッチャーがどういうタイプかにも大きく影響されそうではある。

里崎が正捕手を務め千葉ロッテが優勝した95年や、翌96年には高速フォークを操る伊良部もバリバリ活躍していたから、この数字はたいしたものではないのだろうか。

里崎が言うに最初からパスボールが少なかったわけではないと。

ワンバウンドを処理するには何が大事で、どうすればいいかを教えてもらったことがなかったので、理論がなかったんです。単に勘だけでやっていたんです。ということは、止められるか、止められないかは運任せだったんですよ。理論がわかっていると失敗した後に何が悪かったかがわかってくる。それを教えてくれたのが、当時のコーチの山中潔さん。

この、山中コーチからの指導については、スポーツライターの赤坂英一氏の著作『キャッチャーという人生』の中でも触れられていた。

 

山中さんは、近くから、ボールをアホみたいに何箱も投げ続けて、後ろに逸らさないというような形を作る練習はやりませんでした。ブロッキングの形を作る基本的な練習はしますが、とにかくブルペンに入って、生きたピッチャーの球を実戦で受けろ!と。1球、1球集中して、どんな球が来ても絶対に止めろ!と。当時、二軍にはブルペンキャッチャーがいなかったので、バッティング以外の時間は、ブルペンで受けていました。だから必死でした。練習のための練習になると、その部分が欠けるでしょう。そこでミスをしたら形をチェックするんです。今はファームにもブルペンキャッチャーがいて、“キャッチャーが生きたボールを受けない”という環境になっていて、そこは僕からすればもったいないですね

「練習のための練習になると、その部分が欠ける」というのはごもっとも。
キャッチング練習のための練習だと時間は短くて済むが、実践的な技量は上がりにくそう。

パスボールを減らすコツを聞かれ

僕は、捕れるものは捕ったほうがいいという考え。ワンバウンドは必ず体のどこかに当てて止めろと教える人もいますが、体のどこかに当てると、どこかへ飛んでいく確率が高まります。ミットは、もちろん股の下。胸から上のワンバウンドは体で止めるしかないんですが、ベルトから下の低いものは『捕っちゃえ』と。そうするとボールを弾きません

と答えている。
しかし、そもそも捕れるなら問題にならないのではなかろうか。
自分がキャッチャーではないからか、ピンと来なかった。

 
話はリード面に及ぶ。
WBCの時に、宮本慎也氏に『お前のリードは怖い』と言われるほど、強気だったという。

僕はデータよりも自分の直感を信じる、行けると思えば行く! そういうリードでした。引いて後悔はしたくはありません。もちろん、データ、資料は見ます。家の建築でいえば、いわば基礎工事です。そこに経験と知識と感性で、どれだけ上を積み重ねることができるか。データだけでリードすれば、崩れたときに対応ができなくなります。後は駆け引きです。

1軍のスタメンに名を連ねるプロは短所と言っても意識すれば打てるんです。でも意識をしないと打てないから、そこを意識すぎると反応で打てるはずの長所も消えてしまうんです。それが駆け引き。では、どのタイミングで、どこをどう攻めるか。そこが感性と経験なんです

この記事を読んでいても、里崎が乗ってきたのが伝わってくる。

 

リードには3パターンあると考えていました。(上)(中)(下)の3パターンです。
 
(下)は、相手や状況に関係なく、ピッチャーだけを中心にリードするパターン。ピッチャーの得意球、その日のいい球を引き出していくリードです。ピッチャーに制球力や信用のおけるボールがなく、そこにしか投げられないというレベルのピッチャーの場合のリードです。これをクリアできるレベルのピッチャーになってくると、次の(中)のリードになります。バッターの長所、短所を踏まえた駆け引きのできるリードになってきます。それもクリアできれば、次に(上)です。それは、短所、長所を考えた配球にプラスして状況に応じた結果を求めるリードです。ここは三振をとりたい、ここは絶対にゴロ、ここはフライという計算を立てたリードですね。ただピッチャーの力量が(下)であっても、できないのがわかっていて(中)のリードで勝負する場合はあります。信じてレベルをあえて上げる場合もあります

 
続いて、打席内の打者の観察について。

何百回と同じ打者と対戦するわけですよね。すると、いつも決まった場所にいるのがわかってきます。でも、時折、そのシャドーからはみだすケースがあるんです。おい左肩が出ているぞ、どういうことや、足の踏み出す位置が違う? どういうことや?と。それを解釈しながら狙いや理由を読むんです。

そうやってシャドーを見ていくと、面白い選手、何を考えているかわからんわあという打者とも巡り合います。西武から中日でプレーしている和田さん、日本ハム、巨人、今は、中日にいるガッツさん(小笠原)、稲葉さん、内川、糸井、西武からメジャーに行ったナカジ(中島)も面白かった。和田さんには、徹底して外中心のリードをしていて、たまたま1球だけいったインコースを打たれたことがあります。内川なんて、そこまで崩れながら、なんで打てるの? 意識どこにあんねん?と思う打席もありました。

結局、安定して数字を残しているバッターには苦労するってことのようにも思える。
つまり、どのチームも基本的には似たようなことを日夜研究しているのだろう。

こちらの赤坂氏と糸井さんの対談の記事でも書いたが、糸井さんが言っている「キャッチャーというのは、「ことばの人生」なのかもしれないですね」というのは、この里崎のインタビュー記事を読んでもあらためて実感した。

キャッチャーは面白い。

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