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カープ時代の育ての親である水谷実雄が前田智徳について語る

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THE PAGEの記事「”育ての親”水谷実雄氏、引退した前田智徳氏との思い出を語る」より。

1990年に前田がルーキーで入ってきた時から、上のランクのバッターだと感じたという。

体つきはな、当時は“モヤシ”みたいなもんじゃったけど。ボールの捕まえ方が、ええ捕まえ方しとった。これは先天的なもんで、なかなか簡単に教えてもできるもんじゃない。他の選手に説明するために、バッティングの教科書にしたいバッターじゃったんよ。一つだけ前田に注意しとったんは、伸び上がって打つクセ。バッティングちゅうのは、伸び上がると力が逃げてしまう。逆に、沈み込んで打つと下半身に力が入けえのぅ。

人見知りするタイプやけど、礼儀正しい謙虚な性格や。ルーキーの時から観察力がすごいね。人のバッティングを見たり。見る角度のセンスもあった。

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ただ、前田は自分を追い込み過ぎると体が動かなくなるタイプだった。

他の選手には「やらんかい!」って怒鳴るんじゃったが、前田には切り替えさせることが大事やった。理詰めじゃのうて、対象物で教える。体で覚えさせる。

前田はスランプになると体が開く。そういう時は開かんように意識するんじゃのうて、逆方向に打たせる。逆方向へ、それも流し打ちじゃのうて引っ張る気持ちで。バランスよう打てるまで1時間でも2時間でもレフトへ打たせた。軸足の左足をコマの軸のようにしっかり使えぇと。

逆方向へ引っ張る気持ちで打つ練習法というのは初耳。
確か、逆方向へ強い打球が打てる西武時代の中島裕之が、そのコツを、ライトに引っ張る意識で打つと言っていたのを聞いたことがあるが、それと通じる部分があるのだろうか。

 
前田の良くないところは、気持ちの切り替えに時間がかかるところ。

ゲーム中にピッチャーにやられると、ものすごい悔しい顔をするんよ。悔しゅうてたまらん顔をしようる。それで、センターに守りにいく時、時間がかかってしまう。

自分にはそんな記憶はなかったが、守備につくのが遅いと批判されることもあったという。

切り替えがヘタクソ。だから、やり返そうと練習する。
やられ方が激しかった時、とにかく練習する。
他の選手の比じゃあない。悔しさが原動力になっとった。ワシらが「練習せえ」とか言わんでもよかった。自分に対して妥協しない。とにかく練習量がすごかった

しかし、前述のとおり、度が過ぎると動けなくなる。

悔しさが度を越すと、元気がのうなる。動けんなってしまいよる。それでもあんまり尾を引くようじゃったら、こっちも怒る。そのままやったら、バッティングの調子も落ちてしまうからのう。「10」のうち「6」までなら何も言わん。でも「5」以下になったら、調子を「10」まで戻すのに時間がかかるけぇのう。怒ってやるんよ。

一般的にバッティングというのは、よう打てて3割。なんぼ調子ようてもいずれ悪うなる時が必ずくる。その悪い期間をどんだけ短くするかが大事。ええヤツでも7割は失敗する。これでええ、ということはない。ずっと追いかけて終わるもんじゃ。練習、ゲームで学んでまた練習。それを何年も積み重ねる。いいバッターは何年も続けるが悪いバッターは1年で終わる。

前田が水谷に向かって、ある時こう嘆いていたという。

水谷さん、1年はやるけど、それで終わる、続かん選手が多いんですよ、カープには

チームから期待されていた前田と江藤智には、自然と練習もきつくなった。

シーズンに入っても毎日キャンプと一緒や。ゲーム前でも早く来させて練習やった。アメリカンノックもようさせた。特に江藤はバランスが悪かったんで、裸足で砂を掴むことをやらせた。前田はバランスがよかった。スイングが速うてなぁ。むしろスイングが速すぎて、そのスイングに体がついていかんで、体を痛めるようなことがあった。

前田は皆の前では素振りはやらず一人で毎晩部屋でやっていた。ちなみに、江藤の部屋からは素振りの音は聞こえてこなかったという。

前田の有名な逸話として、1992年、北別府学の200勝がかかっていた試合で巨人の川相の打球を後逸し、それがランニングホームランとなり北別府の勝ちが消えてしまった試合がある。

そん時は、そらすごい顔しとった。ホームラン打ってもな。1週間はおかしな顔しとった。おかしな顔いうのは、ニコリともせんのや。誰とも口きかん。要するに野球というのはミスの勝負なんやけど、ああいう舞台でミスすることは、彼には許せんこと。人に迷惑をかけるんが大嫌いな男じゃ。

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2013年、水谷は阪神の一軍チーフ打撃コーチを務めていた。

マツダスタジアムで最後の対戦の時、挨拶にきてくれたなぁ。「前田、もう苦しまんでええのぉ」と声かけたら、アイツ、オレの胸にすがってポロポロ泣きよった。野球に対して真面目なヤツやな。謙虚。謙虚だから練習する。だから上手くなる。いっぱい引き出しも持っとるやろ。苦しい時にこうしたらええとかな。これからが野球人生は長いんや。これで終わっちゃいかん。アイツは、いいのを作らんといかん。

ちなみに、ほぼ日刊イトイ新聞に掲載されている、糸井さんとスポーツ記者の赤坂英一氏の対談「こういうやつが、いたんだよ。」によると、92年の件のゲームの後、広島巨人戦のたびに、前田が川相に挨拶するようになったという。
どうやらそれは、親愛とは真逆の、「おぼえてろよ」っていう「こんちは!」だという。
人間臭くて面白い。

川相がセンター前にヒットを打ったりしますよね。で、一塁を回って、ちょっとオーバーランして、二塁をうかがってから一塁に戻るでしょ?
そのときに、前田が隙あらば川相を刺そうとしてるんですって。
二塁に向かおうとすると、ガッと投げようとする。
一塁に戻るときボールから目を切ると、一塁に遠投しそうな素振りをする。

この、ほぼ日の記事にもあるが、みんなが前田を語りたがる。

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