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名投手コーチとして知られる尾花高夫の歩んできた道

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高橋由伸がジャイアンツの第18代監督となり、昨シーズンまで2軍投手総合コーチだった尾花高夫氏が1軍投手コーチに配置転換となった。

名投手コーチとして名高い尾花ではあるが、歩んできた道は決して順風満帆ではなく、悲喜交々、紆余曲折さまざまがあった。

各メディアでの報道、記事等から、現役引退後、特にここ10年ほどの動向を振り返ってみたい。

 

投手王国を築き上げた福岡ダイエー・ソフトバンクコーチ時代

投手コーチとしての尾花といえば、バレンタイン監督のもとでの千葉ロッテ時代(1995~96年)、野村監督のもとでのヤクルト時代(1997~98年)も高く評価はされていたが、彼の名を知らしめたのは、なんといっても王貞治監督のもとで働いた、ダイエーからソフトバンクにかけての7年間だろう。

この間、投手たちに大きな影響を与え、投手王国を築き上げた。

斉藤和巳は

無口で余分なことは一切言わないけれど、なぜこのプレーをしなければいけないか、なぜここに投げなければいけないかを、的確に伝えてくれた

と言い、和田毅も、

戦うための準備を厳しく教えてくれた

と慕っていた。

田之上慶三郎や星野順治など、ファームでくすぶっていた投手が芽を出すことができたのも、「何を投げるか、それはなぜか」という尾花の意識改革からだったという。(2005年11月Number 永谷脩氏のコラムより)

こうやって、選手が影響を受けていた内容を聞くと、野村監督の影響が色濃く出ていることがわかる。

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2015年から独立リーグ「信濃グランセローズ」の監督をつとめる岡本克道氏も、福岡ダイエー時代に世話になった王監督と尾花コーチの指導からの影響を強く受けていると言う。

王監督も尾花コーチも、選手とのコミュニケーションをとてもよくとる方でした。野球の話から、私生活の話まで、いろいろとしてくれたのです。また、何か悩んでいる時も、監督やコーチの方から「今、こういう状態じゃないのか?」などと、歩み寄って来てくれました。
信濃・岡本克道監督「王、尾花両氏に見る指導者像」| 現代ビジネス(2014.12.25)

言葉が多いタイプではなかったが、きっちりとコミュニケーションもとっていたことがわかる。
ソフトバンクを退団した年の引っ越しの際には、杉内俊哉をはじめ何人かの選手たちから引越しの手伝いをしましょうかと声をかけられるなど、人望も厚かった。

 
ソフトバンク退団の理由は、横浜に家族を残しての単身赴任。

難しい時期にきている子供たちと一緒に過ごす必要を感じていた。王監督は、事情を察し了解した上に、次の就職先まで気づかってくれた。決まってないと言うと、すぐに巨人関係者に電話を入れ「二軍なら遠征も少ないだろうから」と勧めてくれた。
(2005年11月Number 永谷脩氏のコラムより)

尾花は年に40日ぐらいしか家に戻れなかったという。
プロ野球関係者の多くが同じ問題にぶつかるのだろうが、家族の問題は切実だろう。

 

4年間で3度のリーグ優勝。ジャイアンツのチーフ投手コーチ時代

しかし、王監督が気づかってくれたものの、原辰徳新監督の意向により、ジャイアンツの2軍ではなく1軍のチーフ投手コーチを、翌2006年から務めることになる。

就任1年目には早速、チーム防御率を前年の4.80から3.65と1点以上も改善させた。尾花曰く、四球から120個も相手の得点につながっていたため、まず四球を減らすことに注力したと。

フロントからのバックアップも力強かったし、その後も投手コーチとしての手腕はいかんなく発揮されていった。

巨人は親会社、フロントが優勝するための戦力を整えてくれます。「これだけの戦力を用意したから、結果を残せよ」という、無言のプレッシャーを常に感じていました。

 
ところで、伊原春樹氏が、2006年のシーズンオフに改造された原内閣に入ってきたのが、尾花にとってマイナスに働いたと見るむきも多い。

伊原氏はジャイアンツのヘッドコーチを務めただけでなく、オリックスブルーウェーブの監督(2004)、西武ライオンズの監督(2002-03、2014)を務めるなど、少なくともフロントからの信頼は厚い人物だと思われるが、いかんせん選手や監督・コーチ陣と揉めがちなイメージがある。

当初「伊原野手総合コーチ」「尾花チーフ投手コーチ」だったのに、伊原が「野手総合コーチと投手チーフコーチと、どちらが偉いのか。監督に次ぐナンバー2はオレなのか、尾花なのか」と言い出し、2007年の開幕直前のオープン戦中という異例の時期に「伊原ヘッドコーチ」が誕生している。
原内閣大改造危機|リアルライブ(2010.9.7)

伊原が投手陣のことまで口出しすることで、二人の確執が生まれていったというが、このエピソードを含め真偽・真意がわからない。

というのも、以下の「アサ芸プラス」での対談では、当時のことを悪く振り返っている感はないし、そもそも確執があった相手との対談なんて受ける必要はないだろう。伊原が主張が強かったのは本当のようだが。

尾花 野球は8割方、ピッチャーの出来で勝敗が決まります。だから、伊原さんからいつも「ピッチャーが悪い」って言われていましたよ(笑)。
伊原 それは仕事だからしょうがない。ゲームが終わってから、いろいろ言わせてもらった覚えがあるね。
尾花 コーチ同士って、なあなあじゃいけないですよ。僕の場合、伊原さんからピッチャーのことを言われると「今に見とけよ」と思っていました。反発するのではなく、建設的な関係を築かないと、コーチも成長しませんから。
伊原 コーチが成長しないと、選手も成長しないからね。尾花は考え方にブレがないから、自分はもちろんのこと、選手も仕事がしやすかったのではないでしょうか。巨人が4連覇を逃したのは、尾花が抜けた影響もあったんだ。これは紛れもない事実だよ。
球界スペシャル対談 伊原春樹VS尾花高夫(2) | アサ芸プラス(2012.5.8)

そして二年後。2009年10月24日、中日とのクライマックスシリーズ終了直後、翌年まで巨人と契約があるにもかかわらず、原監督も(おそらく)知らないなか、来季横浜の新監督就任が内定していることが明らかになり、騒動となる。

翌々日の10月26日、川崎市のジャイアンツ球場で行われたチーム全体練習の冒頭に原監督ら首脳陣、選手に尾花は謝罪。両球団首脳間で合意した後、日本シリーズ終了を待ち11月9日に横浜の若林貴世志オーナーが巨人滝鼻オーナーにあらためて正式に申し入れる場を設けた。

この件については、クライマックスシリーズ中に情報が漏れたのが最大の失態だろう。
誰が仕組んだ、もしくは、しくじったのだろうか。

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二年連続最下位。3年契約の2年で解約された横浜ベイスターズ監督時代

2010年から3年契約で横浜の監督に就任。

外から見た横浜の選手には魅力的な素材が多く、自分なら立て直せると考えており、横浜港を周遊する観光船で行われた就任会見では「アナライジング・ベースボール(分析野球)」をぶち上げた。
とりわけ投手陣は、データを駆使して分析し、しっかり準備する姿勢を身につけさえすれば、チーム防御率は飛躍的によくなるはずと考えていた。

しかし、就任1年目の2010年のチーム防御率は4.88。前年より0.52も悪くなった。エース三浦大輔の調整失敗(3勝8敗 防御率7.23)、開幕投手に起用するほど信頼したランドルフの不調(2勝9敗 防御率4.25)が響いた。

それ以上に、チームに染みついたBクラス体質が好転を阻んだ。

野手にしても投手にしても、もうちょっとちゃんとできるチームかと思っていた。『当たり前』のレベルが低い。強いチームではあり得ないが、自分の打席と関係ないときはベンチ裏に行ってたばこを吸ったりしている。それが当たり前と思っているから、そういうところから意識改革しなければいけなかった。
 
バントも一発で決められない。無死二、三塁なら、右方向にボテボテでもゴロを打てば1点入るなんて誰でもわかることなのに、ヒットを打ちにいったり。
 
試合になるとどうしてもみんな自分の欲に負けてしまう。勝って年俸が上がることがないから、自分の成績を上げて年俸を上げようとする。
『【スギのみぞ知る】尾花前監督が初めて明かす“横浜の実像” – ZAKZAK(2012.1.18)』より(現在リンク切れ)

この年、交流戦後、フロント上層部から一軍首脳陣が招集され「打開策」について話し合われたが、フロントの指示により尾花監督だけが外されたことがあったという。

シーズンが始まってわずか数か月。理論派の尾花を入れると見解がまとまらないと考えた結果だろうか。会議の内容は島田誠ヘッドコーチを通じて尾花に伝えられたというが、いずれにしても、フロント、首脳陣、選手たちの足並みが揃っているとは到底思えない状況である。

ダイエー時代に見込んだ島田誠をヘッドコーチに迎えたのは尾花自身。一発に頼らない“ランニング・ゲーム”を増やそうとしたものの、結実せず。
上の、尾花抜きの会議でも、島田ヘッドは監督に反論されるのを想定し根拠をまとめ、報告にも苦労していたとのこと。結局島田は1年で辞任した。

最下位に沈み、尾花の中での変化もあった。

プロなら教えられる前に自分で考え、工夫すべきと考えて現役時代を過ごした。コーチになっても、この姿勢は変えなかった。優しく声をかけ、ときには選手と酒を酌み交わすのが、いい指導者とはいえないという考えで押し通した。ところが、監督になるとこれが選手との「コミュニケーション不足」と指摘された。
横浜・尾花監督、「分析野球」機能せず – 日本経済新聞(2011.9.18)

選手との対話を心掛け、意識改革を少しずつ進めて行った。

結果、翌2011年には、少しずつではあるが投手ミーティングでも反省のレベルが上がってきた。正しい、間違いじゃなく、捕手も投手もどういう意図だったのかを話せるようになってきていた。

また、チームの顔である村田修一の意識にも変化が現われた。

結局は村田のチームなワケ。村田が変わることによって、チームが変わった。今オフ巨人にフリーエージェントで移籍したが、これを機会に親離れじゃないけど『村田離れ』をして、選手たちも少し大人になっていかないと。なんでも村田にオンブにダッコだったからね
『【スギのみぞ知る】尾花前監督が初めて明かす“横浜の実像” – ZAKZAK(2012.01.18)』より(現在リンク切れ)

しかし、球団がTBSホールディングスからディー・エヌ・エーに譲渡されることもあって今後の体制が不透明なため、尾花及び1軍コーチ陣全員は2011年シーズン終了と同時に休養となり、11月からの秋季キャンプは白井一幸2軍監督が指揮を執ることになった。

後日、11月22日に正式に解任が発表された。

最後の2ヶ月(9、10月)、チーム防御率が3.33と安定するなど、ようやく結果にも表れようとしていた。
投の高崎健太郎、国吉佑樹の使える目途もたち、打の筒香嘉智というホープがまさに今飛躍しようとしている。
2年連続最下位だから反論もできないだろうが、無念だったろう。

 
伊原・尾花対談で両氏とも口を揃えるのが、横浜の編成の弱さ。

伊原 横浜の問題点は監督じゃなく、編成部だと思うんだ。獲得した選手はほとんど仕事をしない。能力のある選手はみんな他球団へ行ってしまう。それもそのはず、他球団の二軍戦を観に行っても、横浜の編成部は来てないもんね。
尾花 人材と環境をそろえるのはフロントの仕事。教育や采配は現場の仕事。編成部の重要さをわかっていないのが、巨人との決定的な違いじゃないでしょうか。
球界スペシャル対談 伊原春樹VS尾花高夫(4) | アサ芸プラス(2012.5.10)

2015年前半の躍進もあったし、現在は生え抜きが成長してきている気配はある。
経営がDeNAに移り、編成にも力を入れるようになったのだろうか。

 

若手有望株のレベルアップに注力した巨人2軍投手総合コーチ時代

そして、1年後の2012年11月、巨人2軍投手総合コーチへの就任が決まった。
巨人をはじめ3球団から1軍投手コーチを含めたオファーがあったが、巨人の2軍投手のレベルアップにやりがいを感じたのだろう。宮国椋丞、小山雄輝、高木京介、一岡竜司などなど魅力的な素材の宝庫だったのだから。

現ヤクルト1軍打撃コーチである杉村繁氏によるインタビュー記事でも、尾花の指導方針が変わっていないことが伺える。

素質だけでは伸びない。1軍に上がるための考え方というのがある。目的・目標がはっきりしていること、そのために計画できること、その計画を日々実践できること。これがきちんとしていけば成長していける
【スギのみぞ知る】巨人・尾花コーチとファームからプロ野球を盛り上げます!- ZAKZAK(2012.11.15)

この記事の中で、期待する選手の一人として、現在賭博問題の渦中にある笠原将生の名前があがっているのが残念でならない。

 

高橋由伸新監督のもと、新たな役割が求められる1軍投手コーチに就任

そして現在、2015年オフシーズン。

尾花が昨シーズンの要改善点と捉えているのが、勝利の方程式の山口、マシソン、沢村の負け数。

3人で16敗している(山口5敗、マシソン8敗、沢村3敗)。もし半分だったら、優勝できていた可能性はある。

期待しているのは、田原誠、メンドーサ、公文。

沢村は抑えの地位を確立したと思う。その中でまた成長していってほしい。この3人の(勝利の方程式の)形はあっていいと思うけど、脅かす存在を作っていかないといけないと思う。田原誠もそうだし、外国人枠というのもある。メンドーサも力はある。あとは左腕の公文ですね。手を下げて、制球がよくなった。左打者だけ抑えるのではだめ。1イニングを抑える投手になってほしい

2016年はこの3投手に注目だ。

 
内海哲也の復活への期待も高い。

内海がもう1回、復活するようにしていきたいですね。今年ファームで見て感じるのは、スピードは変わらないけど球のキレが全盛期より、なくなっている。春先のけが(左前腕部の炎症)が影響して、トレーニングができなかった。きちんとトレーニング、(フォームなど)メカニック的なことをやろうという話をしたい。球の回転数を上げないといけない。(球の伸びは)1回転で2センチ違うと言われているので、1回転でも多く回転させれば強さもキレも変わってくる。指先の力、前腕の力を変えれば、回転数も改善していける。
【巨人・由伸監督を支える男達】尾花投手コーチ、公文&田原誠&メンドーサで「新方程式」 : スポーツ報知(2015.11.4)

 
今まで仕えてきた監督らと異なり、高橋由伸は監督はおろかコーチとしての経験もない。尾花には高橋を監督として育てていく役割も期待されているだろう。

尾花の経験上、一番難しいのはゲーム中の投手交代だという。
調子が悪いとか、苦手な打者にまわってきた、後ろの投手に信頼度があるとか、投手交代のポイントの項目がある。何もないのではだめ。自分が調べたデータの中で、菅野だったら1試合平均何球投げているとか、何イニング平均投げていますよ、とか見るだけでも違う

まずは、交代の基準作りの参考となる資料やデータをオフの間に高橋に渡す予定とのこと。

 
人が濃厚に絡む商売だから、人間関係等の苦労は避けられない仕事。
そして、結果が全ての世界。
高橋由伸監督のもと、どんな働きをみせるのか楽しみだ。

今回結果を出して、欲を言えば、以前の横浜のときのような、弱いチームの監督なりコーチなりを引き受けてその手腕を別の場でも発揮してほしいもの。
それだけの期待をさせてくれる人物だと強く思う。

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